今回はおすすめ漫画『チ。―地球の運動について―』の魅力をわかりやすく解説したいと思います!
「常識」に対して矛盾を感じた時、私達はその考えや信念をどれほど貫き通せるでしょうか?
本作品は、天動説が常識の世界で地動説を証明するために命をかける人々の物語です。
中世ヨーロッパが舞台で、常識に背く考えは異端として迫害を受け死刑されてしまいます。
そんな世界を敵に回しても、地動説の「正しさ」「美しさ」を追い求める人々の「情熱」に胸を打たれます。
そして、天動説を現代の諸問題に置き換えて考えれば、本作品には現代の私達に向けられたメッセージがあるとわかります。
人間はいつの時代でも同じようなことで悩んだり争っていて、強さも弱さもほとんど変わりません。
そのため、いつの時代も人を突き動かすのは「感動」と「情熱」なのです。
そのように人間の普遍的な部分に踏み込み、読者である私達に「お前はどうする?」と問いかける漫画なのです。
久々に「やられた!」となる漫画に出会えました。
「マンガ大賞2021」にて2位にランクインするなど人気急上昇中! 命がけで己の信念を貫く漫画『チ。―地球の運動について―』をご紹介いたします。
『チ。―地球の運動について―』ってどんな漫画なの?
以下結論からいうと、以下のような漫画です。
- 情熱や信念を感じる熱い漫画
- 人間の普遍的な部分に踏み込む漫画
- 拷問や死刑などの暴力的な描写がある漫画
- 史実には基づいていないフィクション漫画
- 読者への問いかけがあり考えさせられる漫画
- 連載中で巻数が少ない漫画
作品情報
魚豊先生による漫画で、『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて、2020年42・43合併号から 連載中で、5巻まで発売されています。(2021年11月時点)
1巻しか刊行されていない時点で「マンガ大賞2021」にて2位にランクインし、間違いなく今後名作になる注目漫画です!
本作品における「チ」とは、大地のチ、血液のチ、知識のチが渾然一体となった意味合いが込められているそうです。
また、タイトルデザインがユニークで、句点の「。」に公転の軌道の線がついており「チ(地球)が止まるのか、止まらないのか」という物語自体を表しています。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
また、あえて「チ」という検索しにくいタイトルにすることで、「漫画の感想について、自分だけの意見を考えさせる」という意図があるとインタビューで魚豊先生が語っていました。
「個人の考え」を重要視している点は物語とも一致しており、一貫したメッセージがある作品であることがわかります。
作者・魚豊先生について
前作は2018年11月6日から2019年8月6日まで、『マガジンポケット』(講談社)にて『ひゃくえむ。』を連載していました。
2020年、『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて『チ。-地球の運動について-』の連載を開始しました。
暑苦しいくらいの「情熱」を描くことが得意な作家で、読者の心を揺さぶる勢いや熱量が魅力的です。
物語自体は淡々と進む事が多いです。話のプロットは連載前に完結まである程度決めてから描いているそうです。
冷静と情熱を併せ持つ作風といえます。
あらすじ
まずは作品のあらすじです。
なお内容について触れる関係上、若干のネタバレを含む可能性がありますが、ご理解の程をお願いします
舞台は15世紀前期のヨーロッパ。
異端思想がガンガン火あぶりで処刑されていた時代です。
主人公・ラファウは飛び級で大学に入学するほど優秀であり、当時一番重要とされていた神学を専攻することを皆に期待されていました。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
ラファウは合理的に生きることを信条としており、そして合理的であることの「美しさ」に魅入られている青年でした。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
優秀なラファウは合理性に従う処世術により成果を上げ続け、世界は“チョロい”ものに見えています。
今後このまま合理的に生きていれば、何不自由ない人生が歩めそうでした。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
ある日ラファウの元に父の知人・フベルトが現れました。
フベルトは学者であり「禁じられた研究をした罪」で異端者として捕まっていたそうです。
そしてフベルトはラファウを脅迫し、自らの禁じられた研究に協力するよう命じます。
異端者は二度捕まり改心不可能と判断されると即死刑なので、余裕がないようです。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
山の丘に呼び出されたラファウは、フベルトから禁じられた研究について説明されます。
まず、フベルトはラファウに天体の軌道を描けと命じます。
中世ヨーロッパでは宇宙の形は地球が中心で、全ての天体はその周りを複雑に廻っている天動説が常識であり、難解な軌道になっています。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
そしてフベルトはラファウに、天体の軌道図について「この真理は美しいか?」「君は、美しいと思ったか?」と質問します。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
ラファウは少し考えたあと「共有の秩序を持たないバラバラで混沌とした動きは…合理的ではなく、あまり美しくはない」と答えます。
それを聞いたフベルトは地球自体が2種類の運動(自転と公転)をしている、という持論をラファウに説明します。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
そして自転と公転により、「宇宙は一つの秩序に統合され常識は覆る」ことで「美しさと理屈が落ち合う」というのです。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
ラファウはフベルトが唱える地動説により辻褄が合う合理性に美しさを感じ、自ら進んで地動説の研究に協力するようになります。
地動説を研究していることがバレたら死刑につながる危険があります。
それでもフベルトから受け継いだ知識と信念をもとに、ラファウ達は地動説を証明できるのかという物語です。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
天動説が常識の世界で、異端思想とされる地動説を研究する話です。
『チ。―地球の運動について―』のここが面白い!
どういうところが面白いのかをお話しします!
なお内容について触れる関係上、若干のネタバレを含む可能性がありますが、ご理解の程をお願いします
曲げられない信念で常識に立ち向かう物語が熱い
本作品の一番の魅力は、常識を覆すために信念で立ち向かう熱さです。
ラファウはフベルトに地動説を説明され、その「美しさ」に魅入られてラファウ自身も地動説を証明するために天文を専攻します。
引き継いだ観測資料などを使い地動説の研究を進め、天動説という絶対的な常識を覆すために奮闘するという物語です。
実際のところ、天動説だろうが地動説だろうが、どちらを信じていようが生活に不都合はないはずです。
そのため、「普通の人」からは地動説などという訳のわからないものに命を捧げる研究者達は狂気に見えてます。
つまり異端者を取り締まるのは、頭のおかしい考えをしている人たちを抑え込んでいるだけです。
なぜ研究者たちはそこまで危険を冒してまで、地動説の研究を続けるのでしょうか?
ラファウが異端者を取り締まる異端審問官と話しているシーンでそれが説明されます。
ラファウはどんなに追い詰められても「動いているのは地球だ」と主張し続けます。
それはなぜかというと、自分が信じた地動説の「美しさ」「正しさ」に感動しているからです。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
危険を冒してでも地動説を訴え続ける主人公に対して、異端審問官は「そんな状態を”狂気”と言うとは思わないのか!?」と問いかけられます。
ラファウは「でもそんなのを、”愛”とも言えそうです」と答えるのです。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
たとえ死と隣り合わせでも真理を唱える信念は、愛と言えるほどのものであるとラファウがいうことに、心に迫る熱いものがあります。
「常識がなにか変で、自分の直感が正しいと思う」ということを証明するために、私はここまでの信念を持って挑めるだろうか・・・と考えさせられます。
地動説を証明するために知識と信念を託していく命のリレーが熱い
天動説という常識を覆すのは一人ではできません。
当時は今ほど天体観測技術もないですし、見つかれば処刑されてしまうため隠れて研究する必要があるからです。
そのため地動説を証明するための記録などの研究資料は隠されており、もし研究者自身が死んでも次の研究者に受け継がれるようにされています。
上記は、時代を超えて知識と信念が託されていく命のリレーともいえます。
ラファウはソクラテスなどの哲学者を引用し、死に対して以下のように語ります。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
つまり死をネガティブにとらえていないということです。
地動説に魅入られたラファウは「感動は寿命の長さより大切なものだと思う」と言います。
感動を誰かに託して生き残らすことができるのなら、満足して死ねる。だから危険を冒してでも研究を続けられるということです。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
こうして地動説の研究者達は、みな命のリレーで真実のバトンを託したあと満足な顔で死んでいきます。
「一個人の短い人生を超えて繋がれていくものがある」というメッセージだと思います。
一見すると異様ですが、人生の小ささをポジティブに見せてくれる斬新な漫画だといえます。
人間の普遍的な部分について踏み込み読者に問いかける
この作品は、地動説が正義で、天動説(常識)が邪悪といった単純な物語ではありません。
二つの主張が衝突した時、たとえ大多数の意見と違っても人間は信じる道を行けるのかという極めて人間の普遍的なテーマの漫画なのです。
『チ。―地球の運動について―』1巻より
地動説を現代で論議されている様々な諸問題に置きかえてみれば、この作品のすごさがわかるのではないでしょうか。
諸問題について、「どこか変だ」と納得できないことがあっても、「そういうものだ」と深く考えていないことも多いと思います。
それは教え込まれてきた常識、(無意識に)信じ込んでいる思想のせいかもしれません。
それらに対して「おかしいことだ」と異を唱える者たちは煙たがれ、時には迫害されてきました。
考えてみれば、人間はいつの時代でも同じようなことで悩んだり争っていて、強さも弱さもほとんど変わりません。
そのため、いつの時代も人を突き動かすのは「感動」と「情熱」なのだと本作品は伝えています。
前述したソクラテスなどの哲学者の言葉は、真理として2000年以上の時を越えて人々に感動を与えています。
ラファウ達が地動説の証明に奮闘するように、私達ももどかしく感じる現代の諸問題について自分の意見を持ちその考えを貫き通せるだろうか?と考えさせられます。
上記のように本作品は人間の普遍的な部分に踏み込みながら、「お前はどうする?」と読者である21世紀の私達に問いかける漫画なんです。
『チ。―地球の運動について―』を無料で読む方法
Amazonや楽天で期間限定で1巻が無料になっていることもあるようです。
リンクを以下に置いてますのでご確認ください。
無料になっていなかった場合は、公式サイトで1話を試し読みしてください。
まとめ
天動説と地動説のように二律背反する事柄に立ち向かう人々の熱量で、心を揺さぶられる稀有な漫画だとわかっていただけましたでしょうか。
ちなみに、現実世界で実際に地動説を唱えたのはコペルニクスです。
のちに「発想や考えを逆転して根本から変える」という意味の「コペルニクス的転回」という言葉まで作られました。
『チ。―地球の運動について―』では、3つの「コペルニクス的転回」があります。
天動説を覆す意味の「コペルニクス的転回」、漫画の斬新さの 「コペルニクス的転回」 、そして読者自身の変革の意味の「コペルニクス的転回」です。
要するに、本作品は色んな世界に向けてコペルニクス的転回を巻き起こす傑作漫画なんです!
(作品の熱さにあてられて、少々暑苦しく書きすぎてしまいました。。。笑)
間違いなくおすすめできますので是非とも読んでください!
『チ。―地球の運動について―』1巻より
『チ。―地球の運動について―』のオススメ&ご紹介は以上です!
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『チ。―地球の運動について―』にハマった方はきっと以下の漫画もハマります!
合わせて読んでみてください。
- ひゃくえむ
- BLUE GIANT
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